6.Release
(英)[解放]




 ベッドから飛び起きて、クロノアは頭から何かにぶつかった。
「あだぁ!?」
 額にかなりの痛みが走る。割れそうな頭を抱えて、痛みが引くのをじっと待った。
「っててて、ってめぇ、いきなり起きるなよ…」
 聞き覚えのある声に顔を上げる。同じく額を押さえて痛みに耐えているらしい、ガンツが毒づいた。
「ご、ごめん、大丈夫…?」
「石頭だからな、ちょっと痛かったがどうってことねェ。……それより、顔色が悪いぞ。さっきもうなされて…」
 ガンツの手のひらが、汗ばんだクロノアの頬に触れた。びくりと身体が震える。先程見た夢を、思い出してしまった。
「……ちょっと怖い夢、見ちゃって」
「……昨日も、だったよな」
 こくん。うなずいて、クロノアはガンツに抱きついた。
「お、おい」
「今度は、覚えてた。一人で、真っ暗な部屋にいて、外にも出れなくて…誰もいないのが怖かった…」
 しっかりとすがり付いて離れないクロノアに、ガンツはため息をついてその背中をさすってやった。
「……そういえば、どうしたの?ガンツ。何か用、あった?」
「……あ、いや。飯の時間とっくに過ぎちまってるけど、なんか食うかと思って…」
「あ、そっか、ごめん。眠くなっちゃって」
 時計を見ると、あまり時間はたっていないようだ。もうすぐ深夜になる時間帯。下の階の食堂は酒場になっているのだろう。
「腹減ってるなら何か、用意するぜ」
「……ううん、いらない」
 正直空腹なのかどうかも怪しかったが、食欲はなかった。
 かぶりを振ってまたガンツの胸に顔をうずめると、背中に腕が回された。
「……」
 何も喋らない代わりに、やさしく背中がなでられる。
 精一杯の甘えのつもりだった。こうしていれば、気持ちが落ち着く気がする。
 何も喋らないことはガンツにとっては苦痛だったのかもしれない。頬を手のひらで包まれて、額と唇に順番に、触れるだけのキスをされた。それからすぐにベッドから離れようとするガンツを、クロノアは懸命に引き止める。
「ま…待って、もう少し…ここにいてよ」
「わがまま言うな。……これでも耐えてんだぜ、オレも」
 その台詞が何を意味するのかはすぐに理解できた。何もいえないまま、引き止めるために掴んでいたジャケットの裾を離そうとする。
 離そうとした手に、ぎゅっと力をこめた。
「……嫌。どこにもいかないで」
 一人で眠るのはたくさんだった。どうせまた悪夢を見るのだろうと思うと、夢すら見たくない。
「もうあんな夢見たくない…」
 思わずあふれ出た涙を片手でぬぐう。それでもとめどなく出てくる涙を、わずかに暖かい何かが拭い取った。
「……泣くなよ」
 唇がふさがれる。抑えきれない気持ちと一緒に、ゆっくりと探られた。
「……っん…!」
 やさしく包み込むようなキスは、時折不器用に刺激を伝えてくる。じわじわと身体の奥から熱が上がってくるのを感じて、クロノアはガンツの首に腕を回し、もっと先を求めるように引き寄せた。
「ん、ふ…っ」
 飲み込みきれない唾液がこぼれる。このまま身を任せてしまいたい気持ちに支配される。
「…っ…ん…?」
 不意に唇は離された。これ以上は先に進まないという合図。
 それがぎりぎりのラインでの、妥協なのだろう。
 頬をなでられ、額にキスを受ける。力のはいらない腕で必死に、しがみついた。
「……クロノア、ダメだ。これ以上はお前の身体に障る」
 まだ風邪だって治りきってないんだからと、再三受けてきた注意をまた受ける。しかし──
「……どう、なったっていいよ…もう、こんなの耐えらんないよ…っ」
 焦らす行為にも似た自粛に、熱く火照る身体がジンジンと痛んだ。自分が欲しているものが何なのかはもうすでにわかっていた。
「……ボクのこと、何も気にしなくていいから…お願い」
 疼く身体を震わせながら、クロノアは自らくちづけを送る。何も言わずそれを受け止めて、ガンツはクロノアの華奢な身体を抱き寄せた。
 服の上から優しく身体を撫でられる。愛撫には程遠いスキンシップ程度の触れ合い。その手の動きには、それ以上の意味も含まれてはいたのだが。
「……ん、ガンツ、…気を遣わなくていいよ…っ」
 労りの感じられる触れ方に、クロノアは暗に急かすかのように呟いた。
 心遣いだけはとてもうれしかった。しかし、言葉にならない気持ちがその嬉しさを吹き飛ばす。強く触れてほしかった。
 程なくして、寝間着の隙間に暖かい手が滑り込んできた。ゆっくりと、しかし確実に這い上がってくるその手に、クロノアは身体をびくっと震わせた。
「キツそうだって判断したら、すぐやめるからな」
「……っ!」
 いやだとかぶりを振るクロノアは無視して、ガンツは目の前に横たわる華奢な身体にもう一度触れた。少しずつ寝間着をたくし上げて、下腹部から薄い胸元まで舌を這わせる。
「う、ん…っ、はあ」
 舌と指が這い上がってくる感触に、なんともいえない感情がわきあがる。優しくも強い快感が身体中に熱を運んでいった。
「……笑ってんのか?」
 耳元で不意に、囁かれた。小さくうなずいて、クロノアはガンツの頬に手を添えた。
「……嬉しいんだ。わけがわからないままじゃなくって…ちゃんとわかってて、こうしてるの」
 唇が表面だけ、何度も触れ合った。やわらかいそれを少しずつ深く奪って、ガンツはクロノアの背に腕を回す。その手が、下着と一緒に寝間着の下穿きを下ろした。
 寝汗のせいで軽く湿り気を帯びる四肢に、ゆっくりと手を触れる。
 ぴくんと身体を振るわせるクロノアに優しくキスを繰り返しながら、ガンツは保とうと必死になっていた理性を、殺した。





出だしがエロばっかだったんでもう後は脳内保管で頼むぜ皆さん…
というかもう書けないよ笑
寸止めじゃなくてまあこの後は以下略。
次回あたりから解決の方向に行きたい。